『お正月』 私たち日本人は、古来より御霊まつりとしてお正月とお盆を、一年の生活の中でも大きな節目として大切にしてきました。お盆には、亡くなったご先祖さまの霊がそれぞれの個性を持ったまま帰ってこられ、お正月は、お正月さまと呼ばれる「年神さま」として帰ってこられるるものと考えられています。この「年神さま」は、「お正月さま」あるいは地方によっては「歳徳神」などと呼ばれています。祖先の思いを継ぐ立場にある子孫としての私たちが、先人の霊を集合霊であるご先祖さまに昇華していただくためにお祀りをしていくことは、とても重要な責務であるといえるのです。
12月13日の事始めには、各家が祭(斎)となるために煤払いの大掃除を行い、ご先祖さまをお迎えするための準備をしなければなりません。お正月に立てる「門松」はご先祖さまの依代であり、お飾りする「鏡餅」には、今年のご先祖さまの霊が宿ると考えられているのです。1月11日の鏡開きでお餅を食べるのは、鏡餅に宿るご先祖さまのその年の霊をいただいて、自分の生霊をリフレッシュさせ、今年1年を元気で頑張っていこうという縁起をつけることでした。そういう意味で、目上の人から渡される「お年玉(霊)」も、本来は鏡開きのお餅のことだったのです。
お正月には、このお正月さまを供養するために「神人共食」、つまり皆で持ちよった食物を、ご先祖さまとその家族が一緒に食べることが大切とされていました。お盆やお正月には、外に出ていた子どもたちも帰ってきて、その時持ちよった食物を一緒に食べるのです。これが、今に伝わるお中元やお歳暮の本来の姿です。そして、お正月に使われる箸は、両端が細くて丸い柳箸です。これは、私たちが一方の端で食事をすると、もう一方の端で同時にご先祖さまが食事をされていると観念されているためです。こうして、ご先祖さまをわが家にお迎えし、おもてなしをするというご先祖供養について大切とされていた私たち祖先の思いとは「神(仏)と人ひとが一緒に食事をすること」であったことが分かってくるのです。先祖の伝えてくれた壮大な智恵と思いがこれらの行事に結実し、今日に至っているのです。
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