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『お仏壇のある暮らし』

 核家族が増えている昨今、お仏壇とともに生活をするという家庭が少なくなっているようです。しかし、ほんの数十年前までは、お仏壇は家族にとってたいへん身近な存在でした。お仏壇は居間や客間に安置され、朝食を食べる前やいただき物があった時などに、家族は必ず仏前に供えていたものです。また、家族全員でお仏壇の前で手を合わせるという行為は、日常的な風景でした。「今日も一日、無事に過ごせますように」「孫が生まれましたよ」
「仕事がうまくいかない」などと、お仏壇にむかって各々の思いを伝えたり悩み事を相談していたものです。これは亡くなった自分の父や母、あるいは祖父母が、お仏壇を通していつも私達を見守ってくれている、という意識があるためでしょう。この「いつも見守ってくれている」という意識は、生きていく上で大きな自信につながりますし、また勇気を与えてくれているのです。
 ところが、お仏壇というものに対する意識がうすれている現在では、先に述べたように核家族化が進んだこともあって、お仏壇のない家も少なくありません。また、安置している家庭でも、お仏壇に対する意識は以前とは違ってきているようです。用のない時には仏間には近づかず、命日やお盆・法要などの特別な日にしかお仏壇と関わることがないと考えられているようです。確かに、お仏壇を神聖なものとして大切に考えている、といえなくもありません。しかし、お仏壇には仏さまとともにご先祖さまがいらっしゃるのです。お仏壇とともに生活するということは、ご先祖さまとともに生活することです。お仏壇を通して、ご先祖さまにいつも見守ってもらっているわけですから、私達はもう少し身近なものとして考えてみてもいいのではないでしょうか。
 そこで、なぜお仏壇を家の中でおまつりするのか、という疑問がわいてきます。一般に、お仏壇はご先祖さまをおまつりする場所であると考えられています。しかし、実はお仏壇のほんとうの意味はご本尊を安置し、仏さまにお参りするための祭壇なのです(ご本尊は宗派により異なります。天台宗は釈迦如来や阿弥陀如来、真言宗では大日如来、真宗や浄土宗では阿弥陀如来、日蓮宗では大曼荼羅です)。つまり、お仏壇は仏教の信仰を深めるための場所であるのです。
 しかし「ご先祖さまをおまつりする場所」「位牌を安置する場所」と考えるのも間違いではありません。お仏壇を通してご先祖さまへの感謝の気持ちを育てながら生きていくことも大切なことです。故人をしのび、冥福を祈り、供養をする気持ちは日本人として自然な行為であり、普段宗教を意識しない人でも、お仏壇の前ではこうした気持ちがわきおこります。故人をいつまでも忘れずに敬う気持ちは、お仏壇が日常にあるからこそではないでしょうか。
 家族の誰かが亡くなった後では、ほとんどの人がお仏壇の前で手を合わせるようになります。故人に対する様々な思いを胸に、家族全員でお仏壇の前で手を合わせることは、家族の気持ちをひとつにする大切な時間になることでしょう。全員で一緒にお仏壇の前で手を合わせる時間が、たとえ一週間に一度でもあったら、家族の絆がどれだけ深まることでしょう。きっかけさえあれば、必ずお仏壇への思いは育っていくのです。お仏壇の前で手を合わせる習慣を身につけるもっともよい機会は、お仏壇を購入した時です。言い換えれば、お仏壇を購入するということは、家族のきずなを深めていくチャンスであるともいえるでしょう。

 


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